サンダルウッドの丘の家より ♯1 / 山崎美弥子
2007年~2017年までの10年間、家族で暮らした家「サンダルウッドの丘の家」での日々、
長女の誕生から7歳になるまでを綴っています。
プロローグ
この星で、今、生きている奇跡について思う。 窓枠の向こうに横たわる水平線を見つめながら。
「生きるわたし」は、この生というめくるめく旅の途中で、いくつかの秘密の魔法を見つけました。それはきっと、あなたもすでに見つけたことのある、かけがえの無い秘密と同じかもしれません。
ひとつめの秘密。わたしたちは誰しも、夢を叶える力が絶対的にあるということ。…それは、心の中に自分だけの風景を絵描くことから始まります。
二つめの秘密。わたしたちが奏でるその言葉には、本物のいのちが満ち満ちているということ。そしてその言葉とは、たとえ傷ついて固く凍りついた悲しいこころや風景さえも、ふるえさせるほどの巨大な力を秘めているということ。
三つめの秘密。それはこの世界で一番の贈り物、それが抱きしめることであるということ。そうしてそれは、すごい学校を出ていなくても、お金も家も何も持ってもいなくても、ましてムービー・スターのように美人でも、かっこう良くなくても、もしもあなたが両腕さえ持ってこの世に生まれて来た、それだけ幸運であったなら、今すぐに誰にだってあげることができる、もっとも誇り高く、美しく強く、そうしてあたたかい…このうえない贈り物なのだということ。
そして、もうひとつの秘密の魔法。それは、誰かを愛しているのなら「愛しています」と、今、言葉にしなければならないということ。はっきりと聞こえるように。あなたから愛されているその真実を、彼が(彼女が)決して疑ったりなどしないように。遠い宇宙の果てまでも、たとえ離れてしまっても、決して忘れたりなどしないように。千年もの時空を超えて、まためぐり逢える日が来るまでしっかりと、覚えていられるように。
カーディナルの赤いつばさが今、横切りました。木陰に落ちた空の青を。あなたの魔法の杖をためらうことなく。
編集部より
ハワイ・オアフ島の南東にあるモロカイ島で暮らす画家、山崎美弥子さんと出会ったのは2018年1月。
編集部のつるやと日高はそれぞれ1枚ずつ空と海が描かれた絵を求めました。
美弥子さんは、これらの風景は「千年後の未来」と言いました。
1年後に何をやっているかもわからない2人ににとって、千年という時間ははかり知れず、すごく遠くて、でも、こんな美しい未来なら見てみたい、そう思いました。
島を離れる日、美弥子さんが2枚の絵にタイトルを付けて渡してくれました。つるやのタイトルは「Hānau ʻo Hina(ハーナウ オ ヒナ)」。日高のタイトルは「Mālie hoailona(マーリエ ホーアイロナ)」。これは、日本語に訳すと「優しい予感」。ホーアイロナはその後、偶然にもこのサイトのタイトルになりました。
メールが届いたのは10月です。
美弥子さんが数年前に書きためていた文章を、この度ホーアイロナで連載する運びとなりました。
ここには、美弥子さんがハワイへ、モロカイヘ旅立った当時のこと、生涯のパートナーと出会い、やがて2人の娘さんを授かったこと。島での人々との出会いや日々の暮らしが綴られています。
読み進めれば、ふと我に返る瞬間がそれぞれの人にあるのではないかと思います。
忘れていた記憶がよみがえったり、大切な人へ思いを伝えたくなったり、自分自身や隣の人を慈しむことをあらためて思い出させてくれるのではないか、と。
2018年に15年ぶりに日本で行われた個展(シソンギャラリー)では、10日間で120点の絵画作品が完売になったと聞きました。美弥子さんの描く千年後の未来はたくさんの人の心が求めているのだと感じます。今回の連載エッセイは、2006年刊行の『モロカイ島の贈り物』(産業編集センター/現在は増版未定の品切れ中)の続編といえるもので、2011年に何かにかきたてられるように筆を執り、その後数年をかけて加筆修正を繰り返して完成したものだそうです。
ところで、2枚目の絵、ハーナウ オ ヒナの意味は、ヒナが生まれる。
モロカイ島は、神話によると月の女神ヒナの子といわれています。
モロカイの旅から生まれた私たちホーアイロナは、そのモロカイの妹。
そんなご縁も感じています。
山崎美弥子
1969年東京生まれ。
多摩美術大学卒業後、東京を拠点にアーティストとして活動。
一転し、2004年より船上生活を始める。のち、ハワイ・モロカイ島のサンダルウッドの丘に家を建てる。
現在は東に数マイル移動し、「島の天国131番地」と呼ぶその家で、心理学者の夫と二人の娘、馬や犬たちと、海と空や花を絵描きながら暮らしている。