サンダルウッドの丘の家より・番外編 / 山崎美弥子
通常の連載はお休みして、番外編をお送りします。
デューン・シャンティ 山崎美弥子 2002
外国旅行した時は神様などについて、話題にしないのが無難ということだ。
海の砂丘のシャンティ。ケイプはそこに住んでいた。
それがケイプの世界のすべてだった。
その窓から見えるもの以外何もケイプは知らなかった。なにも。
でもケイプはすべてを知っていた。世界中の誰もそのことを知らなかった。
ケイプがそこにいることさえほとんどの人が知らなかった。
ほとんどの人たちはやはりすべてを知っていると思っていた。
そして実際、すべてを知っていた。そしてさらにすべてのすべてを知りたいと思っていた。
…窓からいつも、いつもケイプは見ていた。そこでは世界のすべてのすべてがくりひろげられていた。
いつも見ていた。
クリーム色のひとすじのひかりが、みさきの向こうのおだやかなサーフへと、終わり無く遠く、なげかけられてゆくさまを。
ケイプは考えた。“すべて”の果てへ行くことを。
そこは遠い国よりも遠い、条件のない場所(あたたかいところ)だった。
山崎美弥子
1969年東京生まれ。
多摩美術大学卒業後、東京を拠点にアーティストとして活動。
一転し、2004年より船上生活を始める。のち、ハワイ・モロカイ島のサンダルウッドの丘に家を建てる。
現在は東に数マイル移動し、「島の天国131番地」と呼ぶその家で、心理学者の夫と二人の娘、馬や犬たちと、海と空や花を絵描きながら暮らしている。