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Aromaクンクン ♯5 / 原田裕子

正倉院の香木、蘭奢待(らんじゃたい)に会う

Photo by Nishiyama Aoi on Unsplash

蘭奢待は正倉院の中倉に収められている名香で、毎年奈良国立博物館で行われる正倉院展でさえも常時見られるわけではないお宝です。

しかし、来たる2019年10月14日~11月24日、令和元年の今年、東京国立博物館で、御即位記念特別展として「正倉院の世界」が開催され、ここで、この蘭奢待が展示公開されるとのこと。ちなみに正倉院展が東京国立博物館で開催されるのも実に38年ぶりとのことだそうです。

まずは、歴史のおさらいも兼ねて。
正倉院は奈良の東大寺大仏殿北北西に位置する校倉造の高床式倉庫。奈良時代を中心とするたくさんの宝物、整理済みのものだけでも約9000点に及ぶ品が所蔵されています。これだけの宝物があるわけですから、蘭奢待を滅多に見られないというのも仕方がないことですね。また、ここには蘭奢待以外にも、香木、香炉、香囊など香りにまつわるものが保管されているそうです。

さて、この蘭奢待。長さは156センチメートル、大きさは11、6キログラムもあります。蘭奢待は沈香と呼ばれる香木で、沈香は中国でも大変好まれています。また、沈香から得られた精油はアガーウッドと呼ばれ、中東やヨーロッパなどでも用いられてきました。沈香は東南アジアに自生するジンチョウゲ科の沈香樹に生じた樹脂とそれを含んだ原木で、樹脂は沈香樹に風害や虫、菌など何らかの要因が加わりキズができることで生じます。香りのもとになる樹脂は、良いものであれば、常温でもわずかな香りが楽しめますが、温めたり燃やしたりすることで本来の香りが立ち、真に楽しめるのです。

沈香の木々。木自体には香りがなく、自然に樹脂が出来る確率はとっても低いのです。

1200年以上も前から正倉院のなかで眠っている蘭奢待。なのに、今でもその香りを保っているそうです。私たちがもしその香りを聞くことができたら、一瞬その時代にタイムスリップするような何とも不思議な感覚が沸きあがるのではないでしょうか。沈香の樹脂の芳香成分は産地によって異なり、現在では産地により、伽羅(伽羅はシャム沈香の最も上ランクとも言えます。)、シャム沈香、タニ沈香などと区別して扱われています。蘭奢待の芳香成分の分析は1950年代から行われ、近年、ガスクロマトグラフィーによる蘭奢待の成分分析と各産地の沈香の芳香成分のデータを比べて、蘭奢待の産地は、ベトナム中部からラオスにかけての山岳地帯であろうということがわかってきました。

えび香(防虫香)。正倉院のえび香(防虫香)の調合を参考につくった香り。丁子や沈香が入ってます。正倉院の宝物も沈香などの香木で守られています。

ところで、蘭奢待は、正倉院宝物目録のなかでは「黄熟香」と記されており、蘭奢待は雅名です。蘭の字に「東」、奢の字に「大」、待の字に「寺」、つまり蘭奢待には「東大寺」という文字が隠されています。東大寺という文字が隠されている名香、何ともワクワクさせられます。その香りの素晴らしさから、織田信長や足利義政、明治天皇がその一部を切り取らせたことでも知られています。文化人では千利休もその香りを聞いたと言われています。正倉院の宝物であるその香りを、私たちが直接試すことは難しいことですが、せめてその姿だけでも見てみたいと東京での正倉院展が今から楽しみです。


原田裕子

原田裕子

香司 / アロマセラピスト / 香りアドバイザー
会社員を経て、好きが高じて香りの世界へ。


調香、アロマテラピーと西洋の香りから始まり、現在は日本の香りを作る香司としても活動。


自然の恵みである香りを消費するばかりではない、"サステナブルな"香りのある暮らしを提案している。

法人向けに、オリジナルの香りの開発も行う。

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